2006-05-07
ペダルチェンバロ、ペダルクラヴィコード、ペダルピアノ 〜足鍵盤付きのチェンバロ?
ペダルチェンバロ、ペダルピアノ…ペダルといってもダンパーや弱音のためのペダルのことではありません。オルガンの足鍵盤のごとく、音階の弾ける巨大な足鍵盤ユニットがあって、その上に通常のチェンバロやピアノを乗せている、といった感じでしょうか。
とにかく見てみないと具体的なイメージが湧かないでしょう。こんな感じです。「おかか1968」ダイアリーというブログでペダルピアノが写真込みで紹介されています。とりあえずご覧下さい。
重厚、というか一種異様というか、とにかくなんか凄そうでしょ?
写真のペダル部の大きさから見てわかるとおり、ペダル部で最低音部を演奏する構造になっています。ペダルピアノを除き「この楽器専用の曲」というのは見かけたことはありません。、ペダルチェンバロを筆頭に、主にオルガン用の曲が録音されています。オルガンの練習用に使われたとも考えられている、といった説はどこかで読んだ気がしないでもないですが、分からなくもない。バッハ当時のオルガンは、ふいごを誰かに操作していてももらわないと一人では演奏できませんからね。
チェンバロで弾いたJ・S・バッハのオルガン曲。イメージしただけでワクワクしませんか?…聴くしかないでしょう。CDなんて真っ先にリリースされていそうですね。
ですが、ペダルチェンバロ等のCDは様々な理由からなかなかリリースされていないのが現状です。となるとますます気になるのが人の心。気合を入れてCDを探したところ、色々見つかりました!
…が、やはり入手に多少の手間を伴うものが多いので、以下、楽器の解説と共にCDを五月雨式にご紹介。
…管理人は、いまだ実現をみていない(?)トッカータとフーガ ニ短調 BWV565のペダルチェンバロによるCDが出ることをひそかに願っています。誰かリリースしてくれたらいいのにな。
<前置き 「なぜペダルチェンバロのCDが少ないのか」 簡単な歴史的経緯>
鍵盤楽器に足鍵盤ペダルを付けるという発想はかなり以前(16世紀ごろ)からその存在が確認されているようで、例えばJ・S・バッハが息子のヨハン・クリスティアンに贈与した楽器として「ペダル付きの3つのクラヴィーア(3 Clavire nebst Pedal)」という記述があり、チェンバロ・フォルテピアノ奏者の渡邊順生さんは、著書「チェンバロ・フォルテピアノ(p391)」の中で、ペダル付き2段鍵盤のクラヴィコード(それぞれ独立した3つのクラヴィコードが一体に組み合わされたもの)であったと思われると推測されています。
※このあたりの出典は、アマチュアのピリオド楽器演奏団体、カメラータ・ムジカーレさんの書評ページ参照。書評以外の内容も充実したページ。
当時のオルガンは一人では演奏不可能だった(演奏者以外に、「ふいご」でオルガンに風を送る「ふいご手」が必要でした)ので、これらの楽器は主にオルガンの練習用に使われたというのをどこかで読んだように思います(出典を忘れました。どこに載ってたっけ…)。
古典派以降、鍵盤楽器がチェンバロからピアノに移行した時代にもこうした楽器が少数ながら存在し、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の自筆譜に、両手では演奏不可能な低音の音符が書き込まれているなど、モーツァルトがペダルピアノを弾いたことは明白なようです(渡邊順生「チェンバロ・フォルテピアノ」p610参照)。また、シューマンがペダルピアノのための曲を作曲しているのが比較的有名です。
<ペダル付き楽器の問題点>
ペダルチェンバロ最大の問題点は、残されている資料が文章のみで具体的記述に乏しく、
「ペダル・チェンバロの復元は、推測に頼らざるを得ない」(下記「レヒシュタイナー・プレイズ・ペダル・チェンバロ」国内盤のライナー、加藤浩子著)
と、この点に尽きます。CDの録音ではペダルピアノの発想そのままに、超巨大ペダル・ユニットをチェンバロの下に配置するというパターンが多いのですが、それが歴史的に正しいのか、と言われると「誰も証明できない」のが現状のようなのです(なお、ペダルピアノであれば、このような巨大足鍵盤ユニットの1815年製の楽器が現存しています。渡邊順生「チェンバロ・フォルテピアノ(p614)」)。
ピリオド楽器演奏の隆盛など、楽器の歴史的考証や考古学的研究を重視する現在では、このように歴史的根拠が確実でない楽器の製作に挑戦する楽器製作者もまだ少なく(最近はちらほらおられるようですが)、CDが非常にリリースされにくい状況のようです。
ペダルピアノの場合、楽器は少数ながら現存するものの、演奏できるレパートリーが少なすぎることが問題点のようです。大体、シューマン以外にこの楽器のための曲を聴いたことがありません(アルカンという一部に熱狂的名ファンを持つような超絶技巧ピアノ作曲家も作曲しています。私大ファンなので是非ペダルピアノ用の曲も聴いてみたいのですが、CDが見当たりません)。
既存のオルガン曲をペダルピアノで演奏する、と言うのも面白そうですが、オルガンと異なり一定音量を長時間保つことができないので、演奏には編曲が必要でしょう。そこまで気合入れて録音する人がいない、ということかもしれませんが、むしろ、この分野はなぜ誰も手を出さないのが不思議でなりません
ペダル・クラヴィコードは1760年製の楽器が現存するようですが、そもそもクラヴィコード自体が(最近少しづつ改善の兆しがあるものの)依然マイナーで楽器の存在自体があまり知られていません(CDのリリースも最近は増えてきたがやはり少ない)。
このため、楽器の普及の度合いを考えると楽器製作者がペダルクラヴィコードにまで手を伸ばすようになったのは比較的最近なんだろうな、と思われます。「かそけき音色が心に染みる」などと普段使わないような表現をつい使ってみたくなるような、渋い音色に浸れる良い楽器なのですが。
<この楽器、聴くならこの1枚(おすすめCD)>
以上の前置きを前提に、ペダルチェンバロ・ペダルクラヴィコード・ペダルピアノ、それぞれ聴くならこの一枚をというCDをとりあえずご紹介。
「Pro Cembalo Pleno」
J・S・バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542、トッカータとフーガ ニ短調(ドリア調)BWV538、前奏曲とフーガ 変ホ短調(聖アン)BWV552、パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582 他
Douglas Amrine(ペダルチェンバロ)[PRIORY PRCD523]
バッハのオルガン曲の有名レパートリーにペダル・チェンバロで真正面から取り組んだものは非常に少ない。このCDは曲目・演奏ともかなり健闘している。95年の録音で、楽器も演奏解釈も完全にピリオド楽器仕様。ドリア調のトッカータとフーガの圧倒的な推進力に、チェンバロ好きはシビれます。
「J.S.Bach pedaalclavichord」
J・S・バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582、トリオ・ソナタ第1番 ハ長調 BWV525、前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539よりフーガ、幻想曲とフーガ ト短調 BWV542よりフーガ 他
Erik van Bruggen(ペダルクラヴィコード)[M.R.S CD9310012]
「200CD 古楽への招待(立風書房)」の片隅にひっそりと紹介されていたが、どの店に注文しても入手不能で長らく探していたもの。結局、英国クラヴィコード協会(British Clavichord Society)の通販コーナー(BCS Bookshop)でようやく発見したが、この店がネットショッピングに対応していなかったため、怪しい英語をひねり出しつつ何とか手紙を作成し、エアメールで代金分の小切手を送付など使い慣れない手段を駆使して何とか購入したという思い出の品(現在このCDは購入不可だが、BCS Bookshopでは現在その続編を通販で取り扱っているようです。続編もペダルクラヴィコード。バッハに加えてブクステフーデやスヴェーリンクの名前も)。演奏は特別に上手いとも感じないが、破綻しているところもなく及第点といった感じ。ただ選曲が攻めの姿勢なのは非常に有難い。クラヴィコードでパッサカリアとか。なおBWV539のフーガは無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のフーガのオルガン用編曲。93年録音。演奏に使用しているクラヴィコードはジャケット写真の楽器そのものではなく、レプリカ使用。
シューマン:ペダルピアノ(ペダルフリューゲル)のための作品全集(練習曲[6つのカノン風小品]op.56、BACHの名による6つのフーガop.60 他)
マルティン・シュメディング(ペダルピアノ[ピアノ=1847年製プレイエル、ペダルユニット=1890年製プレイエル])[ARS Produktion ARS 38 011(SACD Hybrid)]
この曲も今まではオルガン演奏のCDしか見当たらず、ようやくリリースされたペダル・ピアノのCDは、ピアノがプレイエルのピリオド楽器。これは想定外にうれしい。
曲自体は凄く地味と言わざるを得ないが、ピリオド楽器のピアノの音色はいい感じ。なおペダルユニットの大きさが「おかか1968」ダイアリー紹介の楽器に比べとてもコンパクトで、どこに弦が張ってあってどうやって音が出ているのか非常に知りたい。2004年の録音。
<その他のペダル付き楽器のCD紹介>
J・S・バッハ:トリオ・ソナタ集(全曲)BWV525-530
シュテファン・パルム(ペダルチェンバロ)[amphion amph19216]
2001年録音。演奏は「トリオソナタを(何も考えず)ただチェンバロで弾いてみました」という印象を拭えない。もう少しリズムの取り方に弾力が欲しいし、オルガンと同じ感覚で弾いているため装飾が少なく、何か隙間の多い曲だなと感じられる部分が多くて気になる。録音も低音のインパクトが弱すぎるような感じで少し残念。演奏が下手というわけではないので、とりあえずトリオ・ソナタを全曲チェンバロのみで聴いてみたい人は、その目的は達せられる。
「レヒシュタイナー・プレイズ・ペダル・チェンバロ」
J・S・バッハ:半音階的幻想曲とフーガ BWV903、トリオ・ソナタ第4番 BWV528、同第6番 BWV530、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 BWV1001よりフーガ、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV1004よりシャコンヌ 他
イヴ・レヒシュタイナー(ペダルチェンバロ)[alpha alpha027(同番号で国内盤仕様の販売あり)]
半音階的幻想曲ではペダル低音部のオルゲルプンクト的効果を利用して、表現の幅を広げている。左手の動きがかなり自由になってる感じ。シャコンヌも音符の数が非常に多い編曲となっているが、シャコンヌというこの曲に限っては、音符の数が多いからと言って感動が増すとは限らないと感じた。興味のある人はどうぞという感じか。全体的にペダルを使う必然性のない曲が多いというCDの選曲はどうかと。2001年録音。
「BUXTEHUDE & J.S.BACH」
ブクステフーデ:前奏曲 ト短調 BuxWV149、前奏曲とフーガとシャコンヌ ハ長調 BuxWV137 他 J・S・バッハ:前奏曲とフーガ イ長調BWV536、ニ短調BWV539、ハ長調BWV547 他
ライオネル・ロッグ(ペダルチェンバロ)[ORYX Baroque Music Club BMC25]
「BACH on the PEDAL-HARPSICHORD」
J・S・バッハ:パッサリアとフーガ BWV582、トリオ・ソナタ第4番 BWV528、半音階的幻想曲とフーガ BWV903 他
ニコラス・ダンビー、イゾルデ・アールグリム(ペダルチェンバロ)[ORYX The Bach Collection BACH727]
この2枚、かなり昔の録音(ロッグのほうは67年録音)で、「クラシック名盤大全 器楽曲編(音楽之友社)」に、LPの録音としてロッグの同録音(ブクステフーデのみ)が紹介されているが、どうやら近年CDで再リリースされたようだ。が、一般CD店には流通しておらず、Baroque Music Clubなるサイトのみでの販売のようだ。しかもCD-R盤です。需要の少なさを考えるとこういった形での再発もやむを得ないか。
演奏は、特にロッグは時代の割に頑張っているし、ブクステフーデは有名曲が揃っていて印象に残る。ただし、時代の制約上楽器の音色がモダン・チェンバロとも歴史的チェンバロともつかない中途半端な音色なので、その辺はご留意を。ジャケットのチェンバロの絵にはモダンチェンバロの象徴、音色変更用のペダルが堂々とついていますが、演奏にジャケットの楽器を使っているかどうかは不明確。
「RUND UM BACH Volume 1」
J・S・バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV553-560、オルゲルビュヒラインより7曲、幻想曲 ト長調(ピエス・ドルグ)BWV572 他
ハラルド・フォーゲル(ペダルクラヴィコード)[ORGANEUM OC-29701]
フォーゲルのクラヴィコード演奏は繊細で非常に良いが、いかんせん曲目がマニアックすぎ。
「Pedal Piano Recital」
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第18番 K533/494、「女ほどすてきなものはない」の主題による8つの変奏曲 K613 他
ジョン・コウリ(ペダル・フォルテピアノ[1784年製トレド・シュタインに基づく復元楽器])[Entr'acte ESCD6501]
このCDの楽器は、ペダルが手鍵盤の低音部分の鍵盤に連結されていて、ペダルの発音機構は独立していない(手鍵盤とペダルで同じ弦を共用)。
なのでペダルがあまり派手に立ち回りできず、演奏では専らオルゲルプンクト的に低音を持続させたいときにペダルが使われている。選曲が地味、かつ非常に入手困難なレーベルのため、かなりのマニアの方のみ購入対象となるか。
ショパンのトンデモ演奏で有名な演奏者だが、専門の古典派の作品のためか、彼にしては相当におとなしめの演奏(では普通の演奏かというとやはり微妙に独特の雰囲気)。
とにかく見てみないと具体的なイメージが湧かないでしょう。こんな感じです。「おかか1968」ダイアリーというブログでペダルピアノが写真込みで紹介されています。とりあえずご覧下さい。
重厚、というか一種異様というか、とにかくなんか凄そうでしょ?
写真のペダル部の大きさから見てわかるとおり、ペダル部で最低音部を演奏する構造になっています。ペダルピアノを除き「この楽器専用の曲」というのは見かけたことはありません。、ペダルチェンバロを筆頭に、主にオルガン用の曲が録音されています。オルガンの練習用に使われたとも考えられている、といった説はどこかで読んだ気がしないでもないですが、分からなくもない。バッハ当時のオルガンは、ふいごを誰かに操作していてももらわないと一人では演奏できませんからね。
チェンバロで弾いたJ・S・バッハのオルガン曲。イメージしただけでワクワクしませんか?…聴くしかないでしょう。CDなんて真っ先にリリースされていそうですね。
ですが、ペダルチェンバロ等のCDは様々な理由からなかなかリリースされていないのが現状です。となるとますます気になるのが人の心。気合を入れてCDを探したところ、色々見つかりました!
…が、やはり入手に多少の手間を伴うものが多いので、以下、楽器の解説と共にCDを五月雨式にご紹介。
…管理人は、いまだ実現をみていない(?)トッカータとフーガ ニ短調 BWV565のペダルチェンバロによるCDが出ることをひそかに願っています。誰かリリースしてくれたらいいのにな。
<前置き 「なぜペダルチェンバロのCDが少ないのか」 簡単な歴史的経緯>
鍵盤楽器に足鍵盤ペダルを付けるという発想はかなり以前(16世紀ごろ)からその存在が確認されているようで、例えばJ・S・バッハが息子のヨハン・クリスティアンに贈与した楽器として「ペダル付きの3つのクラヴィーア(3 Clavire nebst Pedal)」という記述があり、チェンバロ・フォルテピアノ奏者の渡邊順生さんは、著書「チェンバロ・フォルテピアノ(p391)」の中で、ペダル付き2段鍵盤のクラヴィコード(それぞれ独立した3つのクラヴィコードが一体に組み合わされたもの)であったと思われると推測されています。
※このあたりの出典は、アマチュアのピリオド楽器演奏団体、カメラータ・ムジカーレさんの書評ページ参照。書評以外の内容も充実したページ。
当時のオルガンは一人では演奏不可能だった(演奏者以外に、「ふいご」でオルガンに風を送る「ふいご手」が必要でした)ので、これらの楽器は主にオルガンの練習用に使われたというのをどこかで読んだように思います(出典を忘れました。どこに載ってたっけ…)。
古典派以降、鍵盤楽器がチェンバロからピアノに移行した時代にもこうした楽器が少数ながら存在し、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番の自筆譜に、両手では演奏不可能な低音の音符が書き込まれているなど、モーツァルトがペダルピアノを弾いたことは明白なようです(渡邊順生「チェンバロ・フォルテピアノ」p610参照)。また、シューマンがペダルピアノのための曲を作曲しているのが比較的有名です。
<ペダル付き楽器の問題点>
ペダルチェンバロ最大の問題点は、残されている資料が文章のみで具体的記述に乏しく、
「ペダル・チェンバロの復元は、推測に頼らざるを得ない」(下記「レヒシュタイナー・プレイズ・ペダル・チェンバロ」国内盤のライナー、加藤浩子著)
と、この点に尽きます。CDの録音ではペダルピアノの発想そのままに、超巨大ペダル・ユニットをチェンバロの下に配置するというパターンが多いのですが、それが歴史的に正しいのか、と言われると「誰も証明できない」のが現状のようなのです(なお、ペダルピアノであれば、このような巨大足鍵盤ユニットの1815年製の楽器が現存しています。渡邊順生「チェンバロ・フォルテピアノ(p614)」)。
ピリオド楽器演奏の隆盛など、楽器の歴史的考証や考古学的研究を重視する現在では、このように歴史的根拠が確実でない楽器の製作に挑戦する楽器製作者もまだ少なく(最近はちらほらおられるようですが)、CDが非常にリリースされにくい状況のようです。
ペダルピアノの場合、楽器は少数ながら現存するものの、演奏できるレパートリーが少なすぎることが問題点のようです。大体、シューマン以外にこの楽器のための曲を聴いたことがありません(アルカンという一部に熱狂的名ファンを持つような超絶技巧ピアノ作曲家も作曲しています。私大ファンなので是非ペダルピアノ用の曲も聴いてみたいのですが、CDが見当たりません)。
既存のオルガン曲をペダルピアノで演奏する、と言うのも面白そうですが、オルガンと異なり一定音量を長時間保つことができないので、演奏には編曲が必要でしょう。そこまで気合入れて録音する人がいない、ということかもしれませんが、むしろ、この分野はなぜ誰も手を出さないのが不思議でなりません
ペダル・クラヴィコードは1760年製の楽器が現存するようですが、そもそもクラヴィコード自体が(最近少しづつ改善の兆しがあるものの)依然マイナーで楽器の存在自体があまり知られていません(CDのリリースも最近は増えてきたがやはり少ない)。
このため、楽器の普及の度合いを考えると楽器製作者がペダルクラヴィコードにまで手を伸ばすようになったのは比較的最近なんだろうな、と思われます。「かそけき音色が心に染みる」などと普段使わないような表現をつい使ってみたくなるような、渋い音色に浸れる良い楽器なのですが。
<この楽器、聴くならこの1枚(おすすめCD)>
以上の前置きを前提に、ペダルチェンバロ・ペダルクラヴィコード・ペダルピアノ、それぞれ聴くならこの一枚をというCDをとりあえずご紹介。
「Pro Cembalo Pleno」J・S・バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542、トッカータとフーガ ニ短調(ドリア調)BWV538、前奏曲とフーガ 変ホ短調(聖アン)BWV552、パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582 他
Douglas Amrine(ペダルチェンバロ)[PRIORY PRCD523]
バッハのオルガン曲の有名レパートリーにペダル・チェンバロで真正面から取り組んだものは非常に少ない。このCDは曲目・演奏ともかなり健闘している。95年の録音で、楽器も演奏解釈も完全にピリオド楽器仕様。ドリア調のトッカータとフーガの圧倒的な推進力に、チェンバロ好きはシビれます。
「J.S.Bach pedaalclavichord」J・S・バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582、トリオ・ソナタ第1番 ハ長調 BWV525、前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539よりフーガ、幻想曲とフーガ ト短調 BWV542よりフーガ 他
Erik van Bruggen(ペダルクラヴィコード)[M.R.S CD9310012]
「200CD 古楽への招待(立風書房)」の片隅にひっそりと紹介されていたが、どの店に注文しても入手不能で長らく探していたもの。結局、英国クラヴィコード協会(British Clavichord Society)の通販コーナー(BCS Bookshop)でようやく発見したが、この店がネットショッピングに対応していなかったため、怪しい英語をひねり出しつつ何とか手紙を作成し、エアメールで代金分の小切手を送付など使い慣れない手段を駆使して何とか購入したという思い出の品(現在このCDは購入不可だが、BCS Bookshopでは現在その続編を通販で取り扱っているようです。続編もペダルクラヴィコード。バッハに加えてブクステフーデやスヴェーリンクの名前も)。演奏は特別に上手いとも感じないが、破綻しているところもなく及第点といった感じ。ただ選曲が攻めの姿勢なのは非常に有難い。クラヴィコードでパッサカリアとか。なおBWV539のフーガは無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のフーガのオルガン用編曲。93年録音。演奏に使用しているクラヴィコードはジャケット写真の楽器そのものではなく、レプリカ使用。
シューマン:ペダルピアノ(ペダルフリューゲル)のための作品全集(練習曲[6つのカノン風小品]op.56、BACHの名による6つのフーガop.60 他)マルティン・シュメディング(ペダルピアノ[ピアノ=1847年製プレイエル、ペダルユニット=1890年製プレイエル])[ARS Produktion ARS 38 011(SACD Hybrid)]
この曲も今まではオルガン演奏のCDしか見当たらず、ようやくリリースされたペダル・ピアノのCDは、ピアノがプレイエルのピリオド楽器。これは想定外にうれしい。
曲自体は凄く地味と言わざるを得ないが、ピリオド楽器のピアノの音色はいい感じ。なおペダルユニットの大きさが「おかか1968」ダイアリー紹介の楽器に比べとてもコンパクトで、どこに弦が張ってあってどうやって音が出ているのか非常に知りたい。2004年の録音。
<その他のペダル付き楽器のCD紹介>
J・S・バッハ:トリオ・ソナタ集(全曲)BWV525-530シュテファン・パルム(ペダルチェンバロ)[amphion amph19216]
2001年録音。演奏は「トリオソナタを(何も考えず)ただチェンバロで弾いてみました」という印象を拭えない。もう少しリズムの取り方に弾力が欲しいし、オルガンと同じ感覚で弾いているため装飾が少なく、何か隙間の多い曲だなと感じられる部分が多くて気になる。録音も低音のインパクトが弱すぎるような感じで少し残念。演奏が下手というわけではないので、とりあえずトリオ・ソナタを全曲チェンバロのみで聴いてみたい人は、その目的は達せられる。
「レヒシュタイナー・プレイズ・ペダル・チェンバロ」J・S・バッハ:半音階的幻想曲とフーガ BWV903、トリオ・ソナタ第4番 BWV528、同第6番 BWV530、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 BWV1001よりフーガ、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV1004よりシャコンヌ 他
イヴ・レヒシュタイナー(ペダルチェンバロ)[alpha alpha027(同番号で国内盤仕様の販売あり)]
半音階的幻想曲ではペダル低音部のオルゲルプンクト的効果を利用して、表現の幅を広げている。左手の動きがかなり自由になってる感じ。シャコンヌも音符の数が非常に多い編曲となっているが、シャコンヌというこの曲に限っては、音符の数が多いからと言って感動が増すとは限らないと感じた。興味のある人はどうぞという感じか。全体的にペダルを使う必然性のない曲が多いというCDの選曲はどうかと。2001年録音。
「BUXTEHUDE & J.S.BACH」ブクステフーデ:前奏曲 ト短調 BuxWV149、前奏曲とフーガとシャコンヌ ハ長調 BuxWV137 他 J・S・バッハ:前奏曲とフーガ イ長調BWV536、ニ短調BWV539、ハ長調BWV547 他
ライオネル・ロッグ(ペダルチェンバロ)[ORYX Baroque Music Club BMC25]
「BACH on the PEDAL-HARPSICHORD」J・S・バッハ:パッサリアとフーガ BWV582、トリオ・ソナタ第4番 BWV528、半音階的幻想曲とフーガ BWV903 他
ニコラス・ダンビー、イゾルデ・アールグリム(ペダルチェンバロ)[ORYX The Bach Collection BACH727]
この2枚、かなり昔の録音(ロッグのほうは67年録音)で、「クラシック名盤大全 器楽曲編(音楽之友社)」に、LPの録音としてロッグの同録音(ブクステフーデのみ)が紹介されているが、どうやら近年CDで再リリースされたようだ。が、一般CD店には流通しておらず、Baroque Music Clubなるサイトのみでの販売のようだ。しかもCD-R盤です。需要の少なさを考えるとこういった形での再発もやむを得ないか。
演奏は、特にロッグは時代の割に頑張っているし、ブクステフーデは有名曲が揃っていて印象に残る。ただし、時代の制約上楽器の音色がモダン・チェンバロとも歴史的チェンバロともつかない中途半端な音色なので、その辺はご留意を。ジャケットのチェンバロの絵にはモダンチェンバロの象徴、音色変更用のペダルが堂々とついていますが、演奏にジャケットの楽器を使っているかどうかは不明確。
「RUND UM BACH Volume 1」J・S・バッハ:8つの小前奏曲とフーガ BWV553-560、オルゲルビュヒラインより7曲、幻想曲 ト長調(ピエス・ドルグ)BWV572 他
ハラルド・フォーゲル(ペダルクラヴィコード)[ORGANEUM OC-29701]
フォーゲルのクラヴィコード演奏は繊細で非常に良いが、いかんせん曲目がマニアックすぎ。
「Pedal Piano Recital」モーツァルト:ピアノ・ソナタ第18番 K533/494、「女ほどすてきなものはない」の主題による8つの変奏曲 K613 他
ジョン・コウリ(ペダル・フォルテピアノ[1784年製トレド・シュタインに基づく復元楽器])[Entr'acte ESCD6501]
このCDの楽器は、ペダルが手鍵盤の低音部分の鍵盤に連結されていて、ペダルの発音機構は独立していない(手鍵盤とペダルで同じ弦を共用)。
なのでペダルがあまり派手に立ち回りできず、演奏では専らオルゲルプンクト的に低音を持続させたいときにペダルが使われている。選曲が地味、かつ非常に入手困難なレーベルのため、かなりのマニアの方のみ購入対象となるか。
ショパンのトンデモ演奏で有名な演奏者だが、専門の古典派の作品のためか、彼にしては相当におとなしめの演奏(では普通の演奏かというとやはり微妙に独特の雰囲気)。
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